この記事でわかること
- ヨガ哲学を理解するメリット
- ヨガ哲学で最低限知るべき内容をざっくり押さえる
- ヨガの八支則がわかる
- もっと深く学びたい人への入門書
ヨガ哲学を理解するメリット
「ヨガ」というと、ポーズをとることがまず思い浮かびませんか?
もちろんポーズをとることは大切ですが、ダイエットや運動不足解消のためにヨガをはじめた方も、ヨガを続けていくうちに、哲学や精神にだんだん興味が出てくることがあります。
ヨガを練習する上でヨガ哲学を知っていると、ポーズを通して本質を見つめることができます。単なる肉体的なトレーニングではなく、精神的な面が深まってポーズをより深い境地で味わうことができるので、より充実感と満足感が得られます♪
ヨガ哲学とは
ヨガの起源は、今から約4,500年前の紀元前2,500年頃のインダス文明にあると言われています。インダス文明最大級の都市遺跡「モヘンジョ=ダロ」から、坐法を組んで瞑想する神像や様々なポーズをとる陶器製の小さな像などが発見され、何らかの修行法が存在したのではないかと推測されています。
紀元前1,500年頃には、アーリア人が信仰するバラモン教の宗教的書物『ヴェーダ聖典』の中で、ヨガに通じる哲学や考え方が記されていました。
紀元前800年~500年頃には、サンスクリット語で書かれた奥義書『ウパニシャッド』の中で「ヨーガ」という単語が現れました。『ウパニシャッド』は一つではなく、紀元前800年から西暦200年といった長い歴史の中で、200以上出されています。「ヨーガ」は、中期のウパニシャッドである『カタ・ウパニシャッド』に出てきていることから、社会的にヨガが修行法として確立、認知されていたことが分かります。「ヨーガ」という言葉が社会に認知されたのはこの時期であると言えるでしょう。
紀元後500年頃、聖者パタンジャリが説いた『ヨーガ・スートラ』という書物がインド哲学の一派(ヨーガ学派)の聖典として編集されました。『ヨーガ・スートラ』は「心の作用を止滅することが、ヨーガである」という定義から始まり、心の科学としてヨガを体系的にまとめた最も古い文献です。ヨガインストラクターやヨガ愛好家など、ヨガを学ぶ方は是非読んでおきたいバイブルと言えるでしょう。
ヨガとヨーガの違い
日本では、本やサイトによって「ヨガ」や「ヨーガ」と表記が異なります。「その違いは何?」「どちらが正しいの?」と困惑してしまうかもしれませんが、古代インドのサンスクリット語では、「O」(オー)は長音のため、「オー」と伸ばして発音します。
つまり、インドでは「ヨーガ」と発音するのが正しいと考えられています。「ヨガ」も「ヨーガ」も意味は同じですが、少しでもサンスクリット語を学んだことがある方や瞑想・精神に重点を置いている方は、「ヨーガ」と言っているかもしれませんね。
「心の作用を死滅する」とは
ヨガとは、サンスクリット語の「ユジュ(yuj)=結ぶ、繋ぐ」が語源と言われています。馬車をひく馬の首に軛(くびき)を繋ぐという意味があります。ヨガ哲学では、以下のように例えられています。
- 馬車…肉体
- 御者…理性
- 車主…真我
- 手綱…感情
- 馬…感覚器官
優れた御者は馬をきちんとコントロールできますが、御者の腕次第では馬が暴れて暴走してしまいます。御者が振り落とされて馬車が壊れてしまったり、目的地へ到着することも難しくなってしまいます。御者は、馬の首に繋いでいる手綱で馬を上手くコントロールする技術が必要です。
私たちの感情も同じで、手綱を持たない心は、暴れ馬のように好き勝手に走り回ります。感情に振り回されてばかりいると、身体はあちこち引っ張られてやがて崩壊してしまいます。イライラしたり不安なったとしても、それに気付いて自分の心をコントロールすることができれば、私たちの心はいつでも平安でいることができます。
ヨガは男性が行うものだった?!
今の日本では、ヨガは女性が行うものというイメージが強いですが、本来ヨガはヒンドゥー教の身分制度「カースト」の中で上から二番目に属する「クシャトリア(王族や武士)」の若い男性の身体法として実践されていました。
当時は、呼吸法や瞑想などで心を無にして呼吸を行い、心身のバランスを整えていたと言われています。現在もインドや欧米などでは、ヨガを行う男性は多いです。
ヨガ哲学で最低限知っておきたい八支則とは
ヨガの教えには、八支則(はっしそく)という8つの段階・行法があります。
ヨガの聖典、聖者パタンジャリが説いた「ヨーガ・スートラ」の中に出てくる、ヨガ哲学の基本的な教えになります。
特に、①Yama(ヤマ)、②Niyama(ニヤマ)は、日々の社会的・個人的行動規範となり、最も基本的で実践するのが難しいとも言われる教えです。
八支則
①Yama(ヤマ)
他人や物に対して守るべき行動。道徳的基本。
1. Ahimsa(アヒンサ)…非暴力。考え、言葉、身体を使った行いで、人や自然を傷つけないこと。
2. Satya(サティヤ)…嘘をつかないこと。人や自然を傷つけないように、いつも考えと言葉に一貫性を持つこと。
3. Asteya(アスティーヤ)…盗まない。他の人の所属するものを欲しがったり、奪ったりしない。
4. Brahmacharya(ブラフマチャリヤ)…禁欲。一時的な快楽に更けることを制御する。
5. Aparigraha(アパリグラハ)…貪欲さのないこと。自分の根っこの問題を注意深く見て、貪欲に陥らない。
②Niyama(ニヤマ)
自分に対して守るべき行動。精神的に守ること。
1. Shaucha(シャウチャ)…純潔。考え、身体、環境を清らかに保つ。
2. Santosha(サントーシャ)…満足感を感じる。最低限必要なものを持つシンプルな満ち足りた生活を楽しむ、今ある環境に感謝する。
3. Tapas(タパス)…鍛錬すること。辛く苦しい状況でも、客観的な理解を持って耐える。
4. Swadhyaya(スワディヤーヤ)…継続的な勉強。経典や自分自身に対する学びを深め、精神向上を行う。
5. Ishvarapranidhana(イーシュワラプラニダーナ)…神への祈念。自分の行動と意思を、最大限に全世界に奉仕すること。
③Asana(アサナ)
ヨガのポーズ。アサナと共に意識を体の内側に向けていく。瞑想への準備。
④Pranayama(プラナヤマ)
呼吸と身体、心を繋げることに意識を向けていく。意識的な呼吸を行うことで、自身に活力を与える。
⑤Pratyahara(プラティヤハーラ)
感覚の制御。外からの注意を五感から引き離して内観する。安定した精神状態を保つ。
⑥Dharana(ダーラナ)
集中。意識を安定、一点に留め動かさない。
⑦Dhyana(ディヤナ)
瞑想状態。対象物に集中することもなく、深い静かな精神でいられる状態。
⑧Samadi(サマーディ)
深い瞑想と融合しておこる、悟りの境地 。最高次の超意識状態。
ヨガ哲学を知らないとヨガはやったらダメ?
結論から言うと、ヨガ哲学を知らないからと言って、ヨガをやったらダメ!ということはありません。そもそも、ヨガを練習している人が全員、ヨガ哲学を深く理解しているのか?というと、そんなこともないからです。
「弟子に準備ができたとき、師は自然に現れる」という言葉があるように、ヨガ哲学を学びたいと思ったときが学ぶタイミングですし、本人に興味がなければ、いくら偉大な先生から素晴らしい教えを学んでも理解することは難しいですよね。
ヨガインストラクターでも、哲学の要素を散りばめたレッスンをする人もいれば、ポーズの肉体的な効果を伝えてヨガ哲学には触れないという人もいます。自分がどんなヨガを求めているかを明確にすることが大切です。
ヨガ哲学をもっと深く理解したい人におすすめの本
①インテグラル・ヨーガ (パタンジャリのヨーガ・スートラ)
『ヨーガ・スートラ』と言ったらこの本!とも言えるインテグラル・ヨーガ 。聖者パタンジャリによって記された『ヨーガ・スートラ』を、スワミ・サッチダーナンダが解説しています。数あるヨガ哲学・思想に関する本のなかで、最も簡潔に体系化されているので、何度も繰り返し読みたくなる本です。ヨガを学ぶ方は持っておきたい一冊です。
②やさしく学ぶYOGA哲学 ヨーガスートラ (YOGA BOOKS)
インストラクター養成スクール「アンダーザライト」で哲学を教えている向井田みお先生が、『ヨーガ・スートラ』を細かく丁寧に解説しています。図や表も入っているので、ヨガ初心者の方にオススメです。
③バガヴァッド・ギーター (岩波文庫)
全18章700篇の韻文詩からなる、ヒンドゥー教の聖典のひとつであるバガヴァッド・ギーターは、世界で2番目の発行部数で、聖書の次に読まれている本と言われています。叙事詩『マハーバーラタ』にその一部として収められていて、クリシュナとアルジュナの対話形式でヨガの教訓が説かれています。